大腸がんとは
大腸は小腸から続く消化管の最終部であり、小腸よりも太く全長1.5-2mほどの臓器です。大腸の始まりは右下腹部で、そこから時計回りにお腹を一周しており、盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸・直腸S状部・上部直腸・下部直腸に分けられます。大腸がんはその大腸粘膜から発生する悪性腫瘍です。
日本人における大腸がんの発生率や死亡率は増加し続けていますが、この増加の背景には食生活の欧米化が深く関わると考えられています。大腸がんの危険が高いとみられているのは、大腸ポリープになったことがある、家族のなかに大腸がんにかかった人がいる、動物性脂肪やアルコールの過剰摂取や喫煙をしているといった人です。
大腸がんの症状
大腸がんの初期にはこれといった症状はありませんが、ある程度大きくなると腸の内腔が狭くなり便が通過しにくくなります。このため、残便感や便通異常(下痢や便秘繰り返しなど)、腹部の膨満感といった症状があらわれます。また、がんからの出血によって下血や血便、それにともなう貧血があらわれます。これらの症状は、がんができる部位によっても異なり、便がまだ形成されていない盲腸や上行結腸では便通異常はほとんどありません。
大腸がんの検査
大腸がんの発症初期は自覚症状が少ないことから早期発見のためには定期的な健診が必要です。大腸がん検診では便潜血検査を行いますが、精密検査では大腸内視鏡検査を行います。
手術が必要な場合は、転移検索や深達度診断のためにCT検査や超音波検査、MRI検査などを行います。
当院では、大腸内視鏡検査だけでなくCT撮影装置を利用したCTコロノグラフィー検査を導入しています。CTコロノグラフィーはCT検査における画像処理によって、実際に内視鏡観察をしているような3D画像が得られる検査で、負担が少なく短時間で検査が終了します。
大腸がんのステージ(病期)とは
がんは大腸の粘膜から発生し、進行するにしたがって深部へ伸展していきます。大腸がんのステージは、がんの壁深達度(T因子)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)により0から4までの5段階で分類されます。
ステージ0: がんが粘膜内に留まっている。
ステージ1: がんが固有筋層までに留まっている。
ステージ2: がんが漿膜下層を超えている。
ステージ3: がんの深さに関わらず、リンパ節に転移している。
ステージ4: がんの深さやリンパ節転移に関わらず、血行性転移(肝転移や肺転移)または腹膜播種がある。
大腸がんの手術療法
大腸がんの治療の原則は、がんを残すことなく手術できれいに取り除くことです。術式はがんの部位によって異なりますが、がんを含めた腸管の切除とリンパ節を取り除くリンパ節郭清が基本となります。腸管を切除した後に腸管の吻合を行いますが、直腸がんが肛門近くにある場合は、腫瘍の根治性を得るために人工肛門となる場合があります。
腹腔鏡下大腸切除術
数か所の小さな創から炭酸ガスを注入して腹腔鏡で腹腔内を観察しながら、鉗子を使用して手術を行います。開腹手術との違いは、創が小さいため術後疼痛が少なく身体への侵襲が少ないため、早期社会復帰が可能となります。
当院では、日本内視鏡外科学会の技術認定医が多数在籍しており、約90%の症例に腹腔鏡下手術を行っています。そのなかで、術後合併症のひとつである縫合不全の割合が低いのが特徴であり、2013年度以降の平均発生率が2.3%と全国平均に比べ低い値となっています。また当院では、直腸がんに対して根治性を損なうことのない肛門温存を基本としており、可能な限り永久的な人工肛門を回避しています。
手術療法の合併症
大腸癌の手術における合併症には、以下のようなものがあります。頻度は決して高くありませんが、手術に際して起こりうる可能性があるため、十分なご理解をいただき手術を受けていただいております。
出血:
輸血を必要とするような大量出血は稀です。しかし、がんに伴う貧血の程度によっては輸血が必要な場合があります。術後に出血した場合には、その程度によって再手術や内視鏡による止血が必要となる可能性があります。
縫合不全:
排便にともなう内圧などが原因となり、吻合部から便が漏れ出る可能性があります。腹膜炎や膿瘍を引き起こすため、長期間の絶食や排液が必要となることがあります。また、程度がひどい場合には、一時的な人工肛門が必要となります。縫合不全は、結腸がんの手術では約3%、直腸がんの手術では約10%に発症するとされています。
癒着性腸閉塞:
手術後の治癒過程で生じる癒着が原因となって、腸管が捻じれたりすることで腸管の流れが悪くなることで発症します。排ガスや排便が停止し、嘔吐や腹痛などの症状がみられます。絶食や経鼻的にチューブを挿入して治療しますが、良くならない場合や虚血を伴う場合には、手術が必要となります。
排尿障害・性機能障害:
直腸がんの手術では、排尿や性機能をつかさどる神経の損傷や麻痺によって、排尿障害や性機能障害が生じる場合があります。
大腸がんの化学療法
大腸がんの化学療法を行う目的は2つあります。ひとつは手術後の再発を予防するために行う補助化学療法で、もうひとつは根治切除が困難な場合に行う化学療法です。大腸がんの化学療法には、注射する方法と内服する方法があります。
補助化学療法にはOxaliplatin併用療法とフッ化ピリミジン単独療法があり、投与期間は6か月が原則となっています。
根治切除が困難な場合に行う化学療法では、全身状態や主要臓器の機能、重篤な併存疾患の有無などによって、治療方法が決定されます。化学療法に使用される薬剤は、がん細胞を死滅させたり、がんが大きくなるのを抑える作用をもっていますが、化学療法を手術の代わりとすることはできません。
化学療法の副作用には、食欲不振、悪心、嘔吐、味覚障害、口内炎、易倦怠感、手足の皮膚障害、手足のしびれ、脱毛など、症状に現れるもののほか、血球減少や肝機能障害、腎機能障害など、血液検査で判明するものがあります。
当院では、各種消化器がんに対する抗がん剤治療も行っています。近隣施設との連携により放射線治療も行っており、高度な集学的治療を提供できる体制となっています。
がん検診の重要性
大腸がんは早くみつかれば治る病気です。しかし、ある程度大きくならなければ症状がわからないため、発見時は非常に進行している場合があります。したがって、がん年齢といわれる40歳以降は、たとえ症状がなくても定期的に便潜血検査や内視鏡検査を受けることをお勧めします。