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脳神経外科

顔面けいれん

顔面けいれん

顔面のいずれか一方が不随意にピクピクと動いてしまう状態です。自分が意図しないのにかってに運動が起こってしまうことを不随意運動と呼びますが、顔面けいれんは顔の不随意運動です。一般に不随意運動は緊張すると運動が強くなりますが、顔面けいれんも同様です。顔面けいれんが他の不随意運動と大きく異なる点は、これが睡眠中にも起こることです。
はじめは眼輪筋(眼の周りの筋肉)の小さい動きであることがほとんどで、数ヶ月から数年で徐々に進行して、頬から口の周囲、さらには頸部にまでけいれんが波及します。つまり、顔面神経が担当している筋肉のすべてに不随意運動が起きる可能性があります。ときに不随意運動とともに耳鳴りを訴える場合がありますが、この理由は顔面神経が音の伝達に関係するアブミ骨筋や鼓膜張筋の動きを担当しているからです。自然経過のなかでまれには消失することもありますが、通常、期待できません。ひどく進行した状態では常時閉眼してしまう人もいます。また、軽度ながら顔面の動きが低下する人もいます(顔面神経麻痺)。ただし、 大切なことは生命に危険が及ぶようなことは決してないことであります。
なぜ顔面けいれんが起きるのか現在も明確な答えがあるわけではありません。ただし、大部分の例は、顔面神経が脳(脳幹)から出てくる場所を比較的小さい血管が圧迫していて、圧迫しないようにこの血管をよけてやると、顔面けいれんが治るので、外科的な治療が行われるのです。
他に治療法があるのでしょうか。かつては内科的治療として、精神安定剤や抗てんかん薬が投与されましたが、基本的には無効で、最近はあまり行われません。 顔面神経ブロックといって、顔面神経の出口(耳の後ろ)に局所麻酔薬を注射する方法もあります。これは、一次的に顔面神経を軽く麻痺させる方法であり、効 果はありますが一時的であり、繰り返す必要があります。また、ボツリヌス毒素をけいれんの起こる筋肉に注射する方法も最近試みられています。これも効果は ありますが、3-4ヶ月ごとに繰り返す必要があり、経済的にも高価なものとなります。
外科的方法の治癒率は一般に90-93%とされています。つまり、100%ではないのです。理由は、なぜ顔面けいれんが起きるのか明確な理論的裏付けがな いからであります。ただし、わたしどもの経験でも95%の治癒率があると考えていますので、ほかの疾患の治療成績をみても、かなり有効な方法と考えられます。外科的方法では手術という苦痛があるので、また、脳幹という重要な部位をみることになるので、危険がないわけではありません。したがって、手術をする 場合、本人の治したいという強い希望があって、手術をすることの危険を納得された場合にのみ適用となります。

微小血管減圧術

顔面けいれんの外科的治療法です。手術は開頭法の一つで外側後頭下開頭という方法を用います。この手術は側臥位で、手術部位を見やすくするために頭頂部を低く して頭部を三点固定器で固定します。なぜなら、手術用顕微鏡を使用した手術ですので、少しでも頭部が動いてしまうと危険だからです。耳介の後方に約7cm の皮膚切開を行います。後頭下筋群は一層ずつ剥離して、小後頭神経、後頭動脈を確認しつつ、鋏で切離します。こうすると解剖学的構造を見失うことなく安全 です。穿頭(頭に孔を開けること)は乳様突起の内側下方に行い、約500円玉程度の大きさに拡大します。硬膜(脳を包む最も外側の膜で、骨に付着してい る)は耳のすぐ後ろの出っ張った骨の側に翻転します。すると、通常は小脳がやや張り出してくるので、へらで軽く小脳を圧排して脳脊髄液の自然流出を促します。この時点で、吸引などによるテント下の急激な減圧は避けるべきです。ある程度の減圧を得てから脳脊髄液の貯留している脳槽を開放すると、容易に脳脊髄 液が吸引され、小脳を引っ張りやすくなります。こうすると、下側には下位脳神経(舌咽、迷走、副神経)がみられ、上側に向かうと聴神経がみえます。また、 深部には外転神経が波打つように観察されます。同部のくも膜を切開すると、より明瞭に各神経が観察できます。しかし、顔面神経は聴神経の内側にあるので見 にくいのです。脈絡叢、小脳片葉を手前に引いて、聴神経の下を覗き込むようすると、顔面神経が脳幹から出てくる場所がみえます。この部位を動脈が圧迫して いるので、圧迫動脈をよけて、脳幹との間にテフロンフェルト(綿のようなもの)の小片を置きます。このような微小血管減圧術は小さい開頭で行うことができ ます。開頭した部位を、以前は自家骨を返納して閉鎖していましたが、返納する骨があまりに小さいので、最近は開頭したままにしておきます。無論、筋肉、皮 膚は元通りに縫合しますので、心配はありません。また、外からさわっても骨の無いことはわかりません。

手術の危険度

もっとも頻度の高い合併症は聴力の低下です。つまり、耳が聞こえにくくなったという訴えです。一般論として、2-3%の確立で発生しますが、私どもの200例以上の経験でも2例あります。聴力測定を行うと、そのうち1例に聴力低下が確認できましたが、もう一人の方は手術とは無関係と考えられました。再手術例は合併症の発現頻度が高いようです。数年前に他の病院でこの手術 が行われ、再発して再手術を当院で行った方がありますが、手術部位は癒着が強く、術後、けいれんは止まったものの、聴力が低下したという経験があります。
1%以下の発生率で顔面神経麻痺、髄液漏、小脳の挫傷(傷つくこと)、感染などの合併症も報告されています。幸い当院ではその経験はありません。

手術後の経過

半数以上の方は手術直後からけいれんが消失して、以後けいれんは起きません。術後1週ぐらいの間にだんだんと消失していく方もあります。2-3%の方は、 けいれんの頻度は減ったが完全には消失しない。このような方に再手術を勧める術者もありますが、手術中のビデオを見直したうえで、観察するべき部位を正確 に観察して、減圧を行っているのであれば、わたしどもは再手術を勧めていません。
再発は無きにしも非ずですが低頻度です。私どもの200例以上の経験で、3人の方が手術後半年以上してから、再発を訴えてこられましたが、いずれの方も安定剤の投与のみで再び消失するか、軽減し、コントロールできています。

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