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脳神経外科

神経膠腫

神経膠腫とは

脳を構成する細胞(神経細胞、星細胞、乏突起細胞など)のうち、神経細胞以外の細胞を起源とする腫瘍のことを総称して神経膠腫といいます。細かく分類されていて、それぞれ生物学的性質が異なりますので、ここでは総論を記載します。

症状は、進行の速い腫瘍では脳の局所症状(脳は部位別に担当する機能が異なりますが、相当する機能異常を局所症状といいます)がみられることがあります。一方、進行速度の遅い腫瘍では、腫瘍がかなり大きくなるまで症状のないこともしばしばあります。その際の症状はてんかん発作(様々なタイプがあって、必ずしも全身痙攣 発作とは限りません)や頭痛です。

診断はCT、 MRIといった画像診断が用いられます。手術を前提にした場合、脳血管撮影を行うこともありますが最近はむしろ行わない傾向にあります。多くはこれらの画像診断である程度の質的診断までできます。しかしながら、最終診断は病理診断となります。これは腫瘍を部分的ないし全摘出して、顕微鏡標本を作成して診断します。性質を正しく知るために、免疫組織染色や電子顕微鏡といった手法も使用することがあり、その場合、ある程度の日数を要します。

治療について、まずは外科的摘出です。患部を可及的に取り出します。このとき注意しなければならないことは、後述するように、機能脱落を最小限に食い止めることです。取り出せない部分に対しては放射線治療や抗がん剤治療を追加します。これらの追加療法は副作用がつきものの治療ですので、できることなら避けたいものです。腫瘍の性質によってはこれらの治療法が要らないこともあります。したがって、手術をする意味は摘出ばかりでなく、腫瘍の性質を正しく知るという意味があるのです。病理診断なしに放射線治療や抗がん剤などを用いた化学療法を行うこともありますが、極めて少ないことです。

一般的開頭法

ごく少数の例外を除き全身麻酔の適用です。頭部の固定は馬蹄形のヘッドレストが使用されることもありますが、通常、三点、ないし四点のピンを用いた頭蓋固定装置で頭部を固定します。頭皮の消毒処置ののち、画像診断に基づく開頭予定部位にしたがい頭皮に切開部位をマーキングします。
頭皮は血流が豊富で出血が多いために、止血を目的にエピネフリン入り生理食塩水、またはキシロカインの皮下注射が行われることもあります。血流が豊富なために頭皮の壊死や縫合不全は発生しにくいことになりますが、それでも浅側頭動脈や後頭動脈の走行に留意し、虚血防止のためにこれらを温存するように皮膚弁を作成します。
皮膚弁は帽状腱膜下で剥離し、骨膜を残します。骨切開部位のみ骨膜、あるいは筋、筋膜を剥離し、複数個の穿頭を行います。硬膜を剥離子で骨から剥がしておいて、穿頭部を連結するようにクラニオトームで開頭し、遊離骨弁として骨を除去します。単一の穿頭をもとに開頭してもよいのですが、特に高齢者では骨と硬膜との癒着が強いため、硬膜を損傷しやすいので注意します。
骨弁は抗菌剤入り生理食塩水に浸して保存します。硬膜の止血は最小限として、凝固止血による硬膜の収縮を予防します。硬膜切開はくも膜、脳表を傷つけぬように、フックなどでわずかに持ち上げておいて切開を行います。硬膜切開法について特にルールはありません。開頭範囲を充分に利用できるように開放します。
病変の処置を終了したら、止血を確認後、硬膜を密に縫合します。縫合糸以外、人工物の使用は避けます。骨弁はチタン製プレートで固定し、以後、軟部組織を吸収糸で順層的に縫合します。表皮はナイロン糸、またはステプラーを用います。いずれにせよ断端が密着していて、わずかにせり上がるぐらいがよいようです。
以上のの手術における危険性は低いのですが、硬膜の損傷や、これに伴う脳、あるいは脳表の血管の損傷を考えておく必要があります。発生率は1%弱と想定されます。手術による感染の発生率は1%に満たないものであり、多くは髄膜炎(かつて脳膜炎といった)で抗生物質により完治します。ただし、頭皮やその下部に感染が起こると非常に厄介で、骨を除去する手術、さらに感染が治まったあと、人工骨を入れる手術などが必要になります。一般に感染は術後3-4日で発熱、頭痛、局所の腫れなどの症状で発症します。したがって術後1週間を経て、これらの症状がない場合には感染の問題をクリアーしたと考えてよいのです。頭皮の感染はその後に発生することもありますが、現在では極めてまれで、通常発生しません。

神経膠腫摘出術

脳が他の臓器と最も異なる点は各部位によって、それぞれ異なった機能を有することです。たとえば脳の中央部には手足の運動と感覚の中枢がありますし、後頭葉という大脳の後半部には視覚の中枢があります。一般の腫瘍外科手術においては腫瘍細胞の存在しない安全域を取ってある程度の拡大切除を行うことが通例です。ところが脳実質を摘出する場合、拡大切除は常に機能喪失というリスクを伴っています。神経膠腫はしばしば進行した状態で見出され、運動領や視覚領、言語中枢など機能的に重要な部位(エローケントエリアという)を侵していることもまれではありません。画像診断では浮腫と区別できない部位にも正常細胞に混じって腫瘍細胞が存在します。このような場合、全摘出を試みることは日常生活上の質(Quality of Life、 QOL)の低下に直結します。つまり、ハンデイキャップを背負って生活しなければならないのです。したがって手術治療は可及的摘出となり、残存した腫瘍細胞の治療は放射線照射や化学療法に委ねることになります。しかしながら、どこまでが摘出可能であるのかを判断することは必ずしも容易ではありません。少なくともCTやMRIで造影剤による増強効果のみられる場合、この部分は腫瘍細胞が密に存在し、正常の神経組織は少ないので、日常生活上の質(QOL)を低下させることなく、腫瘍細胞を極力減らすという理念のもとで摘出術を行うことができます。
また、実際にエローケントエリアの障害を示唆する徴候が軽微であればエローケントエリアの腫瘍摘出術も可能で、超音波メスなどの有用性が知られています。切除可能な部位に腫瘍があれば、造影剤の増強効果の有無にかかわらず摘出することが望ましく、前頭葉切除術、側頭葉切除術などが適用されます。

手術

1)術後出血

神経膠腫は一部の例外を除けば血管に富むことはありません。したがって術中出血に苦労することはなく、術後、摘出部位に出血して、再手術を要することは通常ありません。なかには血管豊富な神経膠腫もあり、摘出に際し、ときに輸血が必要なこともあります。つまり腫瘍に触れば出血することになり、血管豊富な部分(CTやMRIで造影剤による増強効果のみられる部分)は摘出しなければ、出血のコントロールは難しいのです。どうしてもこれ以上の摘出は機能的脱落症状(後遺症、あるいは生命に対する危険)を残すと考えた場合には、丹念に止血操作を繰り返します。このような場合が術後出血をきたしやすいのです。一般に再手術を必要とする術後出血は5%前後と報告されていますが、神経膠腫が部分摘出に終わった場合にはさらに高率です。

2)術後感染

一般的開頭法の項に記載しましたので省略します。

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