膀胱とは?
膀胱は腎臓で作られた尿をためる臓器です。腎臓から尿が送られてくる左右の尿管と尿を出す尿道がつながっています。尿が溜まって我慢しているとおなかの一番下が張ったような感じがすると思います。その部分が膀胱です。男性と女性では少しまわりの臓器が違います。男性の場合には膀胱からでる尿道の周囲に前立腺があります。また、男性では膀胱のすぐ背中側が直腸ですが、女性は膀胱のすぐ背中側が膣、そのまた背中側が直腸になります。
膀胱の解剖図
膀胱癌とは?
膀胱の粘膜にできる癌です。
血尿が最も多い症状です。痛みを伴わない場合が多いですが、膀胱炎などをともなう場合もあります。
喫煙が膀胱癌の発癌リスクになります。
医薬品では抗癌剤のシクロフォスファミド、最近、発売禁止された鎮痛剤(頭痛薬)フェナセチンなどが報告されています。日本ではほとんど見ることはありませんが中東、北アフリカの地方病であるビルハルツ住血吸虫の感染も危険因子です。
家族性のものはあきらかになっていません。 癌の根の深さ(どの程度膀胱に食い込んでいるか)によって治療法が変わります。
膀胱癌の疫学
日本人の男性では、膀胱癌は10番目に多い癌と言われています。人口10万人に対して25人程度の方にできます。男性が女性より3-4倍程度多い癌です。男性が多い理由ははっきりとはわかっていません。
膀胱癌の症状
膀胱癌の症状で最も多いのは血尿です。血尿のなかでも尿検査をやって初めてわかるような血尿ではなく、実際に自分の目でわかる血尿がでたために診断されます。膀胱癌が原因で血尿が出る時には、痛みが全くないことがよくあります。逆に、多くはありませんが、血尿が出ずにおしっこの時の痛みなどで見つかる方もいらっしゃいます。
膀胱癌診断/検査
①尿検査・尿細胞診検査
潜血反応陽性あるいは顕微鏡的血尿(肉眼ではわからない、顕微鏡で初めてわかる血尿)、肉眼的血尿がある場合に尿細胞診で尿中の癌細胞の有無を診断します。
②腹部超音波検査
尿を貯め膀胱を充満させることで内部を観察することができ、患者さんの負担が少ない検査として優れています。また、腎臓も同時に観察します。
③膀胱鏡検査
膀胱内部を観察し腫瘍の有無を判断します。以前は硬性鏡という金属製の内視鏡でしたが、現在は柔らかファイバースコープと以前より痛みが少ない検査となりました。診断に必須の検査で、外来で行えます。
④CT・MRI・PET/CT検査
画像検査で癌が全身に広がっていないか、膀胱の周囲に広がっていないかなどを評価します。治療方針を決める上で必須の検査です。
CT検査
MRI検査
膀胱癌の局所浸潤
膀胱癌の治療
①経尿道的膀胱腫瘍切除(TUR-Bt)
内視鏡を使って膀胱の腫瘍を削り取ります。以下の写真に示すような内視鏡を使って、根の浅い癌であればこの手術だけで癌取り除くことが可能です。膀胱癌の第一選択となる治療です。また、筋層非浸潤性膀胱癌に対してはほぼ全ての患者さんに対してTUR-Btが終わった直後に膀胱内に抗癌剤を入れます。この方法により膀胱癌の再発リスクを減らすことが明らかになっています。
②TUR-Bt+膀胱内BCG注入療法
TUR-Btが終わって退院していただいた後で、膀胱内に薬剤を入れる治療を行います。これには2つの意味があります。1つは現在ある膀胱癌に対する治療で、もう1つは同じような膀胱癌が膀胱内にできるのを防ぐ予防のためです。治療としての膀胱内注入療法は「膀胱癌浸潤形式の違い」に書いたTisという上皮内癌に対して行います。この膀胱癌は膀胱粘膜から飛び出すような隆起性の癌ではなく、膀胱粘膜と同じ高さで這うように広がっていく癌であるため、TUR-Btで全てを切除することは難しいと考えられています。そこでBCGを膀胱内に入れます。みなさん、「BCGワクチン」と聞いたことがあるでしょう。結核予防のために生後接種しているのが「BCGワクチン」です。「BCG」とはウシの弱毒の結核菌です。これを膀胱内にいれると膀胱の免疫反応に働いて膀胱癌細胞を破壊します。実際有効であることは科学的に証明されています。多くの場合、1週間に1回投与することを6回繰り返しますが、炎症反応が極めて強く、重症の膀胱炎のような症状(排尿時の痛み、血尿、排尿回数の増加、残尿感、など)や発熱が起こることがあります。中には半年おきに3回の膀胱内投与を繰り返す場合もあります。再発の予防に対してはBCGを使うこともありますし、抗癌剤を使うこともあります。膀胱癌の根の深さやその悪さ、数、大きさなどからどちらを使うかは判断します。
③膀胱全摘
内視鏡で癌が取り除けない根が深い癌の場合、膀胱を全て摘出します。根の深い癌の場合、CTやMRIなどの画像診断で検出できないような小さな転移がある可能性が高く、多くの患者さんは膀胱全摘除術の前に、抗癌剤治療を行います。膀胱を摘出した場合は尿の出口を新たに作成する(尿路変更術)必要があります。
④尿路変更術
尿路変更術は主に以下の2つを行います。
ⅰ)回腸導管増設術
回腸導管は、回腸の一部に尿管とつなげ(図1)、反対側をお臍の横から出します(図2)。そこから自然におしっこが出ますので以下に示した袋を皮膚につけます。
図1
図2
ⅱ)尿管皮膚瘻増設術
腸を使った手術を行えない患者さんや、手術時間を短くする必要がある患者さん、合併症の多い患者さんに対して行います。尿管を直接皮膚に出して自然におしっこが出るようにします。間に腸が無いためどうしても感染症の危険が高くなるという欠点があります。
⑤放射線治療
ご年齢や合併症などの理由で膀胱全摘除術が困難な場合、放射線と抗癌剤を併用して治療します。
また、転移がある膀胱癌患者さんに痛みを取ることを目的として転移部位に放射線療法を行うこともあります。
⑥化学療法
CTやMRIで既に転移(リンパ節や肺など他の部分に癌がある状態)が疑われる場合や癌が膀胱の周囲に広がっている場合は抗癌剤による治療が有効です。以前は、抗癌剤の全身投与は副作用が強く患者さんの負担が大きい治療と思われがちでしたが、最近では様々な副作用を減らす有効な治療が確立しているため、ちょっとした全身倦怠感程度ですむ場合が多くなっています。